2012/12/31

書評: 最強母乳外来

男である自分には母乳外来なんて縁がないと思っていたのだが、今年、仕事の環境が変わり、少し学ぶ機会があった。この本、どうも巷で話題になっている・・・とのことで読んでみたのだが、確かに「あらゆる悩みにお答えします!」の副題に負けない内容になっている。

目次よりも前の巻頭に、WHO/ユニセフが提唱する「母乳育児を成功させるための10ヵ条」があることが特徴的だが、実際の授乳中のトラブル関連の話にとどまらず、妊娠中の取り組みや、病院選びの観点、粉ミルクとのつきあいかたまで、肩肘張らずに読むことができる。助産師としての豊富な経験に基づく話は参考になるのではないだろうか。これまであまり授乳について、能動的に考えることがなかったので、世の中の母親たちがどこまで参考にできるのかは未知数だが、本日時点でのアマゾンの下の評価を見ると、かなり良い本なのではないだろうか。


授乳に限らず育児については、本で読むことはもちろん、身近に頼れる助産師さんや知人、友人がいると心強い。こういった本が良い評価を受ける背景には、日本における核家族化の進展などが影響していることもあるだろう。一人で悩まず、こういった本を読むことで、少しでも育児のストレスを軽減できると理想的だ。

著者である助産師のSOLANINさん、元々はブログで書いていたものが人気となり、書籍化となったとのこと。ブログはトラブルがあった模様で過去の分まですべて読めるか分からないが、現在はここを見ればよいと思われる。

いやはや、自分の知らない世界を知ることは何事も面白い。来年も、新しい物事・人にたくさん触れる機会を作っていきたい。



最強母乳外来 あらゆる悩みにお答えします!
最強母乳外来 あらゆる悩みにお答えします!
SOLANIN(ソラニン)

最強母乳外来  ママをたすける実践編! 初めてママの母乳育児安心BOOK 産婦人科を退院してからの母乳増量マニュアル 最新版 はじめての育児―生まれてから3才までの育児はこの1冊におまかせ! (暮らしの実用シリーズ) 赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド

2012/12/27

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.4

Part.4 よりよい医療を期待して、患者、病院にできること

これまで包括払い制度と、DPC病院群が今後の急性期医療に与える影響を考え、患者視点が足りないことや、地域の中核病院が人材確保などに苦しむ可能性があることを述べてきた。最後、Part.4では、よりよい医療を創るために、DPC病院群というひとつの切り口から、患者、病院にできることを考えていきたい。

実績要件への患者意向の反映
Part.2で見てきた4つの実績要件は、患者視点ではなく、大学病院を評価するために、大学病院に準じた病院を選ぶ視点で定義されていた。そこで、どのようにしたら、患者視点であり、患者の意向を反映させることができるか考えてみたい。

患者・一般市民によい病院とはどのような病院ですかと聞くと、「病気が治る」、「無事退院(転院、施設に入居)できる」、「病気・症状の悪化が止まった、ゆっくりになった」などの期待値の高い、抽象的な答えが返ってくる。実のところ、病気が治るか、治らないかは、病院に来るまでにある程度決まってしまっている。例えば、がんであれば、初診時の進行度合で、治療成績は大きく変わるため、単純な比較は難しい。よい取り組み事例として、以前ブログでも紹介した全がん協が公表したがん5年生存率は、患者背景をある程度考慮した比較になっており、A病院とB病院を比べられる可能性が高い事例である。
このような指標を実績要件に入れることが難しいことは重々承知しているが、患者の意向として、こういう取り組みを理解し、支えることが重要なのではないだろうか。患者の具体的なアクションとしては、まず、こういった指標を積極的に公開している病院は「良い病院」であることを認識するだけでも良い。さらにそれらの指標を比較し、自分にとって良い病院が何か判断できるような理解力をつけることができればベターだ。少なくとも、世の中にあふれているランキング本を鵜呑みにして、ランキング上位の病院に行っているうちは、患者が実績要件を変えることはできない気がする。

指標を公開している事例として、Part.3でも紹介した済生会熊本病院は主な指標はもちろん、治療成績まで開示している(参考:済生会熊本病院 外科 診療実績)。また、聖路加国際病院も、Quality Indicator(医療の質)を2007年から継続して開示。書籍も出版し、他病院の参考となっている(参考: 聖路加国際病院 Quality Indicator)。他では、聖隷浜松病院(参考:聖隷浜松病院 クリニカルインディケーター)、荻窪病院(参考:荻窪病院 Quality Indicator)など、積極的な病院においては、非常に充実した開示を行なっている。

2012/12/26

fitbit aria(wifi 体重計)を3ヶ月使ってみて

以前、fitbit ariaを使って1ヶ月目に「楽チン」と書いたが、その後、さらに2ヶ月使ってみて、印象はまったく変わっていない。相変わらず、乗るだけで、勝手に記録されている。

体重推移(10/1 ~12/25)

ただ、残念なことがひとつある。体重が減っていない!!
先週、トレーニング直後に測った瞬間最大風速的な体重が、久々の60キロ台が誤差の範囲というところまで迫ってきて、喜んだのもつかの間、忘年会シーズンで、元通りどころか、増加してしまいそうな予感までしてきた。

もちろん、体重計は悪くない。悪いのは自分だ。

上:歩数推移 / 下:昇った階数推移 (10/1 ~12/25)

ひとつだけ良い兆しが見えてきている。体重計と一緒に買ったfitbit ultraは、順調に記録をしてくれていて、歩数や距離は、あまり変わっていないのだけど、昇った階数は、増加しているように見える。(極端に多い週があるのは、週末に出かけたりした影響)

体重こそ減らないものの、何かしら動こうという意識は、活動量計に結果として残っているようだ。

忘年会シーズンのラストスパート。飲み過ぎ、食べ過ぎに注意したい。

2012/12/25

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.3

Part.3 DPC病院群 2群、3群が明暗を分ける現実的なシナリオ

増減収インパクト、費用負担インパクト

Part.1、Part.2で、DPC/PDPS制度(包括払い制度)の概要と、DPC病院群とⅡ群、Ⅲ群の要件を見てきた。医療費を抑えつつ、病院にとって金銭的インセンティブを与え、その費用負担は患者にさせる制度であるため、いかに納得感のある仕組みにするが重要である。ただ、ここまで見てきた結果、決して納得感のある制度とは言いづらいのが実情であった。

ここでは、Ⅱ群(メジャーリーグ)、Ⅲ群(マイナーリーグ)の違いによる金銭的なインパクトを比較してみる。まず、平成30年度時点でのⅢ群とⅡ群の係数差異シミュレーション(下図)がある。
Ⅲ群からⅡ群に移行した場合の係数増減シミュレーション
(出所: 厚生労働省 H24.8.21 中医協DPC分科会 資料)
このシミュレーションによると、多くの施設はⅡ群に移行すると0.02~0.03程度増加することが想定され、最大では0.06以上の増加になることが想定されている。

2012/12/24

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.2

Part.2 患者視点が置き去りになった病院群の設定

■90病院がメジャーリーグ入り

そんなニュースが医療界を駆け巡ったのは、2012年度末のことだ。一般市民からしたら、DPC制度すら馴染みがないのに、病院がⅠ群(大学病院)、Ⅱ群(大学病院本院に準じた診療密度と一定の機能を有する病院)、Ⅲ群(それ以外の病院)に分かれたと言われても、さっぱりピンと来ないだろう。

DPC病院群の内訳(出所: 厚生労働省 H24.4.25 中医協資料)

あるDPC病院Ⅱ群に指定された医療機関のホームページ

Ⅰ群は大学病院本院だけで、実質、雲の上、別世界であるがゆえに、大学病院本院を除いたDPC病院1,400病院強のうち、90病院が入れたⅡ群が「メジャーリーグ」、Ⅲ群が「マイナーリーグ」とでも言えばよいだろうか。今、この約1,400病院では、Ⅱ群「メジャーリーグ」を目指した(すでにⅡ群のところは維持する)熱い闘いが始まっているとも言われている。(余談だか、1、2、3という名称は、誰もが、Ⅰ群が良く、Ⅲ群が悪いと受け取る。各群は良し悪しではなく提供機能が違うことを明確にしたかったはずなのに、名称が仇となっている気がしてならない。昨年度の議論途中まで残っていた名称である、大学病院群、高密度診療病院群、急性期病院群、といった感じで、甲乙つけがたい名前にしておけば、こぞってⅡ群を目指したりすることはさほど起きなかったのではないだろうか。)

闘うには訳がある。Part.1で述べた係数(サービス税率)、Ⅱ群になった施設は、Ⅲ群に比べ少しだけ加点がなされていて(基礎係数に差異があり)、ゆくゆくは、この加点が大きくなる予定なのだ。各病院が、この加点だけを理由にⅡ群を目指しているわけではないが、加点はⅡ群を目指す大きな理由のひとつだと思う。

この熾烈な闘い、各病院はどのようにしてⅡ群(メジャーリーグ)を目指しているのだろうか。
まずは、その背景となる、2群、3群の明暗を分けた基準を見ていく。

2012/12/21

患者視点が置き去りになったDPC/PDPS制度 Part.1

Part.1 包括払い制度は誰にとってメリットがあるのか

■値段は”ほぼ”一緒

国民皆保険制度の日本において、自由診療でなく、保険診療を受ける以上は値段がほぼ一緒である(厳密には異なる点は後述)。どうせ値段が一緒なら、立派な病院に行きたいのが正直なところだし、生死を賭ける大病ならば、腕利きの医者に診てもらいたい、治してもらいたいと思うのは誰しも自然なことだと思う。
ただ、どこの病院がよいか、客観的に分かるものがないゆえ、患者はクリニックで紹介された病院に行ったり、週刊誌や新聞、本などで特集される病院ランキングを参考にしたり、テレビ番組の名医・スーパードクターの紹介に心動かされたりする。患者が限られた情報で思い描く理想の病院が身近なところにあればよいが、無かった場合には、病院探しの旅に出ることとなる。病気という苦しみを抱えた上に、病院探しという負担を強いるのは、精神的にも肉体的にも厳しいことだ。しかも、この旅、結果が良ければまだよいものの、結果が約束されているわけではないため、病院探しの旅に尽力したものの思うような結果に至らないこともままあるのが現実だ。

■入院費用は徐々に包括払いの病院が増えている

あまり馴染みのない話かもしれないが、現在、日本では急性期病院の一部(病床数に占める割合では53.1%)が、DPC/PDPSという包括払い制度となっている。



DPC病院数と一般病床に占めるDPC病床割合
(出所: 厚生労働省 H24.3.28 中医協資料を元に作成)

この包括払い制度は、虫垂炎であれば、1~3日目35,250円(1日あたり)、4~5日目23,760円(1日あたり)といったように、その病院で実施する細かな治療内容とは関係なく、入院料が定められている。DPC/PDPS制度でない出来高払い制度は、ベッド代、点滴代、検査代といったように実施した治療それぞれで点数(料金)が計算され、請求される制度である。包括払いでは、あらかじめ点数が決められているため、なるべく無駄な治療はしないように努力し、退院させようとする。一方で出来高払いは料金を上げるためには多少過剰な治療をしがちである(やりすぎるとチェック機関からダメ出しを食らったり、一部治療の請求自体が無効になったりするが)。

DPC制度概要(出所: 厚生労働省 H22.10.26中医協資料 DPC制度の概要と基本的な考え方)
この包括払い制度自体は、どの病院も同じで、前述の虫垂炎であれば、どの病院も、1日目35,250円は共通である。しかし、各病院の持っている機能や人員体制により、「係数」が定められていて、この1日35,250円に、おおよそ1.05~1.5くらいの係数がかかる。すなわち、サービス税が税率5%の病院と税率50%の病院があるのだ。
サービス税の税率は、簡単に言うと、看護師の配置や、地域の診療所・クリニック・病院との連携体制等の様々な病院の「枠組み」を評価したものと、病院がどういった疾患を扱っているか、効率的な入退院をさせているか等の病院の「機能」を評価したものにより定まる。

※サービス税と喩えることが不適切と疑問を呈される方もいるだろうが、医療従事者の苦労が適切に報酬に反映されるためには「サービス税」と表現することが良いと考えている

2012/12/18

自民圧勝で医療はどう変わるか

自民が圧勝した。
自民党の政権公約を改めて見ていると、消費税増税をベースにした公費負担で、年金、医療、介護を確立するというのが基本だ。

医療の内容は、処遇改善、適正配置。これは絶対に必要なことだから、国民負担を伴ったとしても構わない。具体的なアクションについて注視していくべきだ。また、健康管理への自主的な取り組みの促進は、1.Personal Health Recordなど仕組みづくり、2.健康管理に対する教育・意識向上、3.運動やセルフメディケーションなど医療保険・介護保険の枠外での自主的な取り組みに対する支援、これら3つが噛み合う必要があると考えている。

自民党 政権公約
社会保障
  • 公的年金制度、医療保険制度、介護保険制度については、「社会保険制度」を基本とするとともに、社会保障給付に要する公費負担の財源は消費税収を中心とする中で、保険料負担を含め国民負担の増大を極力抑制しつつ、国民のニーズに対応した社会保障の確立を目指します。
  • これらの考え方により、自民党主導のもとで取りまとめられた社会保障制度改革推進法に基づき、消費税引上げの実施を判断する来年秋を目途に、高齢化の進展の中で持続可能な社会保障制度を確立するために必要な法案を国会に提出します。
  • 人生100年時代を見据え、高齢者の雇用機会や活躍の場をつくり、生涯現役社会を実現します。
医療
  • 国民皆保険を守ることを基本に、処遇改善などを通じて、医師等の人材や高度医療機器等の医療資源を確保するとともに、その適正配置を図り、地域で必要な医療を確保します。
  • 国民負担の増大を極力抑制する中で、予防医療総合プログラムの策定など、健康管理への自主的取り組みの促進、医療保険制度における財政基盤の安定化、保険料負担の公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等により、真に必要な医療の提供を進めます。
  • 患者の利益に適う最先端の医薬品、医療機器及び再生医療等の研究・開発と迅速な導入を進めます。
  • 患者意志(リビングウィル)の尊重と看取りの充実を図ります。
介護
  • 介護サービスへのニーズが急激に増大する中で、現行の介護制度は財政的に危機的な状況にあります。従事者の処遇改善や研修等の支援による介護サービスの質の向上や効率化・重点化に加え、所要の財源確保を前提とした公費負担の引上げ等により、保険料負担の増大を抑制しつつ、真に必要な介護サービスを確保します。




    余談だが、医薬品、医療機器の研究、開発を進める、という項目もあるが、昨日昼時点での日経平均と業種別騰落率で比較すると、医薬品セクター、株価はあまり反応していなかった。自民党に政権が変わったくらいでは、医薬品会社の業績は大差ないということか。一方、電力、鉄鋼、金融が大幅に騰がっていた。電力は言わずもがなか・・・。

    2012/12/17 12:47時点 日経平均騰落率と業種別騰落率

    (2012/12/19追記)
    昨日、医薬品セクター、株価があまり反応しなかったか、と書いたが、自民党の公約には、新薬創出・適応外薬解消等促進加算の恒久化がうたわれていたので、もう少し騰がることを期待していた。織り込み済みだったということか・・・

    2012/12/14

    今週末は選挙戦一色??

    西日本の駅で見た光景。

    えびかに合戦!?

     
    さるかに合戦ではなく、エビとカニが合戦を始めたとは物騒な。世間は選挙戦で一色かと思ったが、こちらは美味しそうな戦いだ。甲殻類好きにはたまらない。

    改札を抜けようとしたら、今度は、かにカニエクスプレスの文字が。

     

    かにカニエクスプレスとは、語感が良い。しかも、この企画、JR西日本の冬の恒例人気企画らしい。

    今回、選挙戦では、自民、民主に加え、第三極の維新、未来、そして、公明、社民、共産といった既存政党間の熱い戦いになりそうだが、カニの戦いも、なかなか激しい模様。パンフレットによると、行き先は、北陸版、城崎温泉・天橋立版、山陰版と3種類用意されている。北陸であれば、越前海岸、東尋坊、山代・山中温泉、敦賀といったコースが選択できる。日本海側のカニ産地・温泉地の激戦だ。各政党(産地・施設)の政策(料理)も趣向を凝らしている。茹でがに、焼きがに、かに刺し、かにしゃぶ、かにすき、かに茶碗蒸し、かに雑炊、かにご飯、かに味噌汁、などなど。ただ、本当の選挙戦同様、政党間の政策の違いが見えにくい。写真ではどれも美味しそうだ。

    あー、おいしいカニが食べたくなってきた。

    突然だが、そんなカニから、健康食品がたくさん作られていることはご存知だろうか。

    2012/12/10

    シンナー乱用なんて、何年ぶりに聞いただろうか

    突然だが、小学校の教科書を買った。


    気になることがあったので、教科書がどうしても欲しくなったのだが、本屋で売っているのを見かけたことはないし、義務教育の教科書なんて、そもそも人生で一度も買ったことないし・・・と思ったら、今の世の中、便利だ。ネットで買えた。

    株式会社 山形県教科書供給所 教科書販売サイト

    小学5・6年生の教科書の一部

    うず巻きでは、シンナーの怖さが伝わらない気もするが、おそらく教える先生も大変に違いない。シンナーなんていまどき??と思うかもしれないが、ゲートウェイ・ドラッグとして、有機溶剤は今でも重要なポジションを占めているらしい(飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(2010年)

    酒・タバコ→有機溶剤→大麻・覚せい剤、という流れが確実にあるとのこと。脱法ハーブがニュースになることも多い現在では、もっと手が届きそうなところに、ゲートウェイがありそうな気もする。実態にあわせた指導をしないと効果が薄れてしまう。んー、やっぱり先生は大変だ。

    2012/12/07

    DPC評価分科会 何のための指標か、誰のための指標か

    今日は中医協 DPC評価分科会を傍聴してきた。



    議題には、DPC導入の影響評価に関する調査結果について、DPCコーディングマニュアル、病院指標の作成と公開、とあり、個人的には最後の指標の話を楽しみにしていた。

    ■コーディングマニュアル(ドラフト版はこちらに
    処置や手術の選択は恣意的に行うことができないため、コーディングにおける自由度、解釈の違いが生じるのは、病名付け、DPCコーディングのためのICD10コーディングのことを指している。マニュアルが整備されるということは、今後、DPCコーディング内容の返戻や査定が活発化する可能性も考えられる。意図的なアップコーディングが問題なことはもちろん、無知ゆえのミスコーディングも、患者に余計な負担を強いているという意味では、やはり問題である。適正なコーディングは、DPC制度の根幹にある重要なことだと思う。

    なお、ドラフト版に記載されていた内容を見ると(以下、斜体は引用。うち下線はこちらが追加)

    (2)医療資源病名と、実施した手術や処置との間に「乖離」がある場合は、その理由を診療録へ記載するとともに、レセプトのコメント欄または症状詳記への記載が望ましい

    事情のある症例は、査定されないよう理由を書け、書いていないなら・・・(削る気満々?)

    (3)医療資源病名は、病態を最も適切に表すものにすべきである。
    ※注意:原因疾患がはっきりしている場合は、呼吸不全、循環器不全等の不全病名を選択すべきではない。また、疾患の部分的現象であるアルブミン減少症、貧血、血小板減少症、好中球減少症、カテーテル先感染症等を意図的に選択してはならない。
    例:肺炎を「呼吸不全」、心筋梗塞や心筋症を「心不全」、消耗性疾患でアルブミンを投与した場合の「アルブミン減少症」、原因の明確な出血で輸血をしている場合の「貧血」、癌の化学療法中に血小板を輸血した場合の「血小板減少症」、GCSF 等を皮下注した場合の「好中球減少症」等がこれに該当する。

    化学療法や放射線治療時では、G-CSFの投与の仕方にもよると思う。予防的な、保守的な投与の場合は、安易に好中球減少症を選択するのは不適切なこともあるはずだ。ただ、患者の状態が非常に悪くなってしまった等、G-CSF投与が不可欠な場合に、医療資源病名に好中球減少症を選択することは間違っていないと思う。このようなことこそ、現場では判断に困っているわけで、これをマニュアル的に記載してもらえると、医療者視点での不公平感が薄れるだけでなく、患者視点としても、「DPC制度ゆえに医療資源の投入が抑制されてしまった」などという最悪の事態を回避できるように思う。

    今回のマニュアル、Ver.0.75ということで最終版ではなく、ドラフトではあるものの、全般的に、一番困る「こういうときはどうしたら良いの?」という、みんな共通の『悩みどころ』は書いてあるのだけど、『答え』の要素のところは、「○○を選択するにたる相応の理由が必要」等の記載になっている。答えは教えてくれない。症例は千差万別で、多かれ少なかれ差異があることを考えると、こういうマニュアルになることは致し方ないのかもしれないが、これでは益々「この場合は、症状詳記に○○と書け!」といった指南書が出回るに違いない。

    ■病院指標
    事務局から、今回は機能評価係数2への追加の要否は判断しないと前置きがあった上で、病院が指標を作成し公開することの意義と内容の議論であった。各病院が分析できるような人材・体制を整備することが重要であり、係数設定により、その流れを加速させたいようだ。重要性はそのとおりだと思うが、係数=患者負担、であることを考えると、患者視点での内容評価が不可欠だと思う。その前提が共有されない中では、指標は医療者視点のものになってしまうことを懸念していたが、懸念通り、医療者視点のものが大半だった。

    平均在院日数、患者は知って、うれしいのか??
    例えば、がんになった患者が手術を受けるとき、在院日数が平均15日の病院と、10日の病院を比較して、10日の病院を選ぶだけの合理性を持ち得ているだろうか。この数字を作成・公開することで費用が余計にかかっています、という説明を患者に納得してもらうのは厳しいのではないだろうか。入院にかかる平均費用や、医師ごとのおおまかな術式別の手術件数、再手術率といった指標の方が、患者にとっては良いのではないだろうか。週刊誌や新聞社が独自にランキングしている指標より、公平性、透明性があるものを提示してくれるのならば、価値があると思う。

    5大がんステージ別症例数は良い!
    延べ退院患者数ではなく、実患者数で評価するこの指標は、どういった患者が集まっているのかが分かって良いと思う。ステージ毎の手術件数も分かると、なお良い。(ちなみに委員からの質問で「ステージ」が分からない人もいるのでは?とあった。確かに知らない人は知らないだろうが、サッカーのオフサイド、野球のタッチアップみたいなもので、「がん」に興味がある人であれば、ほぼ全員が知っていると思ってよいはずだ)

    病院関係者が病院関係者のために作る指標
    肺炎、脳梗塞は、自分が病院関係者であれば、病院間の比較に用いるのに適した指標が並んでいると思う。ただ、患者視点で、これらの指標を見て、ピンと来る人は皆無な気がする。DIC、敗血症、その他の真菌症あたりは、言うまでもない。素人お断りの指標になるに違いない(説明文で「当院はDICの発症率が低く、全国の平均と比較し良い病院と言えます」と書くのが精一杯では。しかも病院ごとに患者バックグラウンドが違うだけに単純比較はかなり危ういこと)
    また、委員から質問・意見のあった「救急車の応需率、非応需率」といった指標を入れるのはどうか?という提案は、「ここはDPC分科会なので、データも取れないし、検討できない」とバッサリ切られていた。病院のための指標ではなく、患者視点で非常によい指標だと思うのに・・・。

    ソフトウェアベンダー、指標特需
    これらの指標、各病院が作り、公表したら係数がもらえる公算が大きい。仮にデータ提出係数と同じくらいの係数が付くことを想定すると、DPC包括部分の収入が、年100億くらい(大規模な病院)では、2000万円程度、年30億くらい(中規模な病院)でも600万円程度、年10億くらい(DPC病院の中では小さめの病院)でも200万円程度の収入になる。ということは、ソフトウェアベンダーが「うちのシステムを使えば、指標の計算から、ホームページに反映まで自動でできます。費用はわずか年50万円です」といったビジネスが成り立つに違いない。ざくっと病院数をかければ、50万円×1,500病院=7.5億円となる。患者からお金を薄く集める仕掛けのおかげで、ソフトウェアベンダーと病院は増収になるに違いない。なお、DPCの係数により患者からお代をいただくというのは、出来高病院にはできない芸当ゆえ、不公平感があることも否めない。

    病院指標に対し、今後に望むこと
    DPCデータの良さである、患者のバックグラウンドの分かりやすさ、医療資源投入内容が分かりやすさを活かし、アウトカム、もしくはアウトカムに直結する指標を開示できないだろうか。例えば、リハビリ実施率、退院時ADLの回復状況、在宅復帰率などだ。あと意外と情報を得にくいのは、医師数やコメディカル人数、放射線撮影・治療機器の整備状況、ストラクチャーの部分が、画一的でなく病院間でバラバラなだけに、同じフォーマットで記載してくれていたら、非常に役立つように思う。今後に期待したい。

    2012/12/05

    病院内での固定観念を壊せ

    今日の日経産業新聞の「病院大競争時代」。
    昨日からの連載の2日目だが、今日も面白い内容。事務部門を始めとした院内の人材育成に本腰を入れた病院は、これから益々強くなる。 
    飯塚病院、徳洲会、東海大学、戸田中央医科グループが紹介されている。記事からの引用だが、興味深い。
    飯塚病院: 一部の病棟で看護師の常駐場所をナースステーションから病室に変更した。(中略)効果は徐々に出始めている。患者と接する時間が増え、患者の体調の変化に気づきやすくなった。病室内の転倒事故も減らすことに成功。
     徳洲会: 2カ月に1度、経営セミナーを開催。全病院の院長や副院長、看護部長、事務局長が集まって全グループの経営状況を共有する。前年実績に比べて税引き前利益が3千万円以上減った病院名を公表するほか、病床数や科目がほぼ同じ病院同士の経営状況を比較。治療だけでなく経営についても競わせる。 
    こういった取り組みが組織的にできる病院が、利益を人材育成に回したら、本当に強い。まさに戸田中央はその事例だ。
    戸田中央:適切な利益を出し続け、最新の医療機器などに再投資することが結局は患者の利益につながるという意味だ。
    「最新の医療機器」とあるが、人材にも投資している病院であることが、記事本文から読み取れる。患者・職員・病院経営者、誰にとっても良い病院になるための鍵が「人材育成」だと思う。これは、例えば、職員全員が財務諸表を読める必要は無い。もっと良くなるにはどうしたら良いだろうかと考える組織風土と、組織を束ねるマネジメント能力の育成が大事なのだと思う。

    先月、病院の管理部門の知人がこう言っていた。「看護部門のトップは看護師である必要はない。」 キャリアパスの都合や慣習で看護部門をマネジメントするのが看護師になっているのだとしたら、考えなおす余地が大いにある、という意味だろう。逆に、看護師は看護部長や看護部門統括の副院長がキャリアの頂点ではなく、才能に応じて事務部門や管理部門で働いたり、マネジメントしても良い。固定観念を壊すのは面白い。

    2012/12/04

    書評: 健康増進外来

    生活習慣病に対し、医療者は、一体、何ができるだろうか?
    例えば、糖尿病であれば、血液検査をし、糖尿病薬を処方することだけではない。薬物療法はもちろん、食事指導・栄養指導や、運動療法など、様々な取り組みが考えられる。これは、誰しもが同じ方法で通用する話ではなく、その個人個人に対し、最適な方法を組み合わせることが必要となる。

    そのとき、どういった診察を行うのがよいのか、とことん突き詰めた結果が、健康増進外来という形で実を結んだのだと思う。看護師が中心となり、患者個々の生活習慣と向き合う。指導するのではなく、「患者自身が行動目標を作り、実行すること」を支援する。このようなスタイルは、通常の外来診療では時間的な制約もあり現実的でない手法である。

    さらに糖尿病の管理料(生活習慣病指導管理料)だけで、健康増進外来の収入を賄おうとする姿勢は、収益面で苦しい医療機関としては、なかなか選択しにくい判断だと思われる(患者の数がある程度いるならば、もっと効率的、収益性の高い医療提供方法がある)。
    にも関わらず、健康増進外来を続けていることは、本質的に患者に対する価値が最も高いという信念があるからに違いない。また、関係している医療者のコメントが、随所に引用されているが、患者と向き合う機会は、大きなやりがいになっていることが伝わってくる。

    健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして健康増進外来―理想の糖尿病外来をめざして
    佐藤 元美 松嶋 大

    提言―日本のポリファーマシー (家庭医・病院総合医教育コンソーシアム) 日本プライマリ・ケア連合学会基本研修ハンドブック 驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく) ささえる医療へ (HS/エイチエス) 新・総合診療医学 (病院総合診療医学編)

    効率的な医療とは、医療機関にとっての効率性を指しているのであれば、患者が置き去りになっている可能性があることを再認識するきっかけとして、この本は非常に大きな気付きを与えてくれた。

    実は、先週、「健康増進外来」を実施している医療機関を訪問していた。そこでは、自費診療で健診センターの1メニューとして提供していた。その理念は素晴らしく、外来の内容も病院の持ち出し部分が多く、意気込みと熱意を感じるメニューになっているのだが、開始依頼、3年で10数件しか患者がいないということで、病院の思いは患者まで届いていないようであった。

    この本では、外来の時間を19時からの1時間としたり、仕事をしている人でも受けやすいように配慮していたり、看護師が患者ごとに専任で固定されたり、継続しやすい環境を作っているとのことであった。そういった患者への歩み寄りも必要かもしれない。

    ただ、何よりも、健康増進外来は、生活習慣病に対する取り組みとして、大きな可能性を感じる。それだけに、現状の薬物療法が前面に出てくる医療は、患者によってはベストでないことを、多くの人に理解してもらう必要性を強く感じた。医療費の価値ある使い方に、医療者も患者も、もっともっと真剣に考えなければならないように思う。

    実は、この本、厚さ(ページ数)の割に、ちょっと高い。でも、中身は値段をはるかに上回る価値が詰まっている。オススメの一冊だ。





    流行の先端を行くのは佐賀

    今年もインフルエンザの季節がやってきた。
    いよいよ、身近な人でも、流行の波に乗った人が出始めた。
    国立感染症研究所感染症情報センター 薬局サーベイランス インフルエンザ推定患者数

    感染症情報センターのグラフでも、先週頃から、かなり増えてきている様子が分かる。

    薬局サーベイランス インフルエンザ推定患者数(関東 都県別 週報)

    東京もいよいよ来た感がある。学級閉鎖も出ているようだ。11月は、佐賀県や沖縄県で流行の兆しが出ていたが、先週から、全国的に増えてきつつあるようで注意が必要だ。
    (ちなみに、これらの傾向、弊社の処理システムでも分析できているものの、マスク着用者の風邪かインフルかの判断で、まだロジックが調整できていない。結局、調整できないまま、インフルエンザシーズンに突入してしまった・・・。反省)

    日経の先週の記事に、「インフルエンザ脳症に注意 乳幼児、けいれん続けば受診を」とあったが、感染予防には、ワクチン接種やマスク着用、手洗い、湿度維持、休養休息、人混み回避等が挙げられていた。

    ワクチン接種、日本では集団接種か病院・クリニックで受けることになるが、いずれにせよ、医師に注射を打ってもらう。これはどこの国でも当たり前か?というと、そんなことはない。アメリカでは、医者でも打てるが、ドラッグストアの一角でも打ってもらうことができる(下記サイトは大手ドラッグストアのインフルエンザワクチン案内)。ここでの注射を打つ人は医者ではない。
    Target(ドラッグストア)のflu shot(インフルエンザ予防接種)の案内サイト

    注射を打つのは、ナースプラクティショナーだ(認定薬剤師も注射可能)。ナースプラクティショナーはインフルエンザワクチンの予防接種をはじめ、簡単な怪我や風邪の診察、処方であれば、対応できる。また、日本ではありがたみをあまり感じないかもしれないが、予約なしで診察してもらえるのが特徴だ。

    日本では、インフルエンザが流行してくると、予防接種の人と、インフルエンザの患者と、それ以外の患者が入り混じってしまい、特に小児科などでは、時間を分けたり、発熱者の部屋を別途確保したり、色々と大変なようだ。さらに、予防接種は、クリニックにとって、あまり収益面では恵まれていないといった話も聞くだけに、同情してしまう。

    これからのシーズン、発熱時の受診は、状況に応じて、事前に電話連絡を入れておく等の配慮をし、クリニックや病院を困らせないよう心がけたい。

    2012/12/01

    診療報酬制度が変わるかも??  ・・・いや、変わらないかも。

    個人のフェイスブック(下の画像にリンクをはってあります)に簡単なコメントを書いたのだが、日本維新の会が公約「骨太2013-2016」にを29日に発表した。


    以下、一部を抜粋
    医療・福祉の成長産業化(案)
    1、診療報酬点数の決定を市場に委ねる制度へ。
    2、混合診療の解禁。




    これは、誰が中心での「成長」産業なのだろうか。医療者? 保険者? 国民? 国会で議論してくれたら良いポイントなだけに、公約だけで終わってしまうのは勿体無い



    医療・福祉の成長とは、医療費・介護費の「増加」を指しているのか?
    おそらく、そういった意味は薄く、医療や福祉で成功事例を創出し、日本国内への展開と、さらには海外へ進出することを後押ししたいのだと思う。

    1点目。診療報酬点数の決定を市場に委ねる、とは、皆保険制度下の公定価格の決定を市場に委ねるのか(中医協のオープン化、自由市場化)、それとも、各医療機関毎に点数自体の決定権を委ねるのか(診療報酬点数の公定価格廃止や、最高価格制度、値引き制度の導入等)、両者は全く意味が変わってきてしまう。
    どちらにしても、日本の医療が根底から変わる可能性があり、良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。この議論は面白いのではないだろうか。

    2点目。混合診療の解禁は、これまでも議論がなされており、主な論点はwikipediaの項目が分かりやすい。また、『「病院」がトヨタを超える日』という北原先生が書いた本も、混合診療のことに触れられているので、読んでみるのもよいと思う。

     

    医療・福祉の議論が活発になることは良いことだ。

    横一列にずらーっと並んだ党首討論を見て、討論なんてできっこない!と思った。政策、公約を考えている人は、頭の良い人たちなんだろうけど、トップは、椅子取りゲームをしているようにしか見えなかった。

    投票日まで、各政党、立候補者の政策・主義主張を見極めなければ。これも、大事な「医療に貢献する」ためのアクションのはずだ。

    2012/11/28

    高齢化が進む社会に向けた心構え

    間違いなく高齢者が増える。絶対的な数も、比率も。
    思わぬタイミングで、がんや心疾患、脳卒中で亡くなる人がいることも確かだが、
    誰もが元気でいて欲しいし、大往生と言われるような最期を迎えてもらいたい。

    ただ、現実は、長生きできたとしても、身体的な衰えや、怪我により、身の回りのことができなくなることが多い。下のグラフのとおり、要介護認定率は、歳を重ねるにつれ、急激に高くなってくる。
    要介護度別認定者数の推移(厚生労働省作成資料)

    80歳以降で要介護率が急激に高まっている。これは、80歳以降で気をつけるのではなく、それまで十分に注意し、不自由が生じないよう努力をしなければいけませんよ、というメッセージだ。
    70歳までは良いが、70からの10年をどう過ごすかで、結果が大きく変わる。

    軽い運動を続けることも大事だろう。運動機能的な健康を維持するには、関節を柔らかくしておくことが大事らしい。

    そして、違う観点で面白い商品がある。
    下の写真は、テルモが11月20日にプレスリリースで色の追加を発表した、転倒予防靴下だ。


    縫い方を変えることで、つま先が上向きに浮くとのこと。その結果、転倒予防につながるらしい。色が追加されたのは、好評ゆえとのこと。こういった商品、ちょっと高い場合が多いものの、積極的に利用し、健康を維持したい。

    2012/11/25

    病院ランキングと高校ランキングの共通点

    どこの病院がいいか?

    自分が、家族が、知人が、病気になったとき、良い病院に行きたい願望は誰しも少なからずある。国民皆保険制度下の日本では、どこの病院でも、値段に大きな差はなく、アクセス制限(行く病院が強制されていたり、どこどこ病院は診てくれないといった制限がある状態)もない。

    となれば、『良い病院に行きたい願望』は、『どこが良い病院なのか知りたい願望』へと変わる。
    結果として、巷には、ランキングの本があふれている状況だ。
    amazon.co.jp "病院" "ランキング"での検索結果
    検索結果にずらーっと並ぶランキングの本の多くは、名の知れた出版社や新聞社から出ているだ。これを読むと、「ほぉ~、胃がんでは、この病院が東京都で1位か。」といったことが分かる。近頃は、評価基準が記載されているものも多いため、透明性のある実力評価のように思えてしまう。

    ■手術件数が多い病院は良いのか
    単純な件数比較
     胃がんの手術が年間10件の病院と、年間100件の病院があったら、それは誰しも100件の病院の方が良い・・・と思うだろう。この良し悪しは諸説あるのだが、以下の論文ではがん領域においてハイボリュームセンターは質が良いとしている。

    Impact of Hospital Volume on Operative Mortality for Major Cancer Surgery FREE Colin B. Begg, PhD; Laura D. Cramer, ScM; William J. Hoskins, MD; Murray F. Brennan, MD JAMA. 1998;280(20):1747-1751. doi:10.1001/jama.280.20.1747.

     ある外科医から聞いた話だが、同じ手術で、週3件の病院(年150件程度)と、週1件の病院(年50件程度)と、月1件(年12件程度)の病院を比べると、外科医の技術も差が出るだけでなく、医療チームとしての差が大きくなってくるとのこと。週3件実施している手術は手術チームのコミュニケーションや、スキルが格段に上がっていることを実感できるという。

    医師ひとりあたり件数
     胃がんの手術が年間100件の病院(胃がんの執刀医2人)と、年間200件の病院(胃がんの執刀医10人)があったら、どうだろうか。前者は1人あたり50件、後者は20件。しかも、医師が10人いたら、全員が平均的に担当している可能性は低く、おそらく50件の医師と、5件の医師が混在している可能性が高い。
     1人あたり件数は、多い方が良い。でも医師数が多いのも良い。どっちが良いか、ますます判断がつかなくなって来る。

    ■開腹手術と腹腔鏡手術、どっちが良いのか
     ランキング本では、腹腔鏡の手術件数を並べているものもある(例:読売新聞医療情報部の「病院の実力」)。腹腔鏡の症例が多いと、「ここの病院は技術力が高いのでは?」「うまい医者がいるのでは?」と期待してしまうかもしれない。ただ、現実には、その技術力も大事だが、患者のがんの状況に合わせ、腹腔鏡と開腹の合理的な選択をしていることがほとんどである。
     つまり、腹腔鏡が適用できる患者が多いか少ないかといった、集まってくる患者群の背景を説明している可能性が高い。

     ただ、そうは言っても、まったく参考にならないわけでもない。腹腔鏡が極端に多い施設は、どのような症例でも腹腔鏡を適用しようとする。例えば、前述の読売新聞社の2011年の本の数値から、大腸がんの東京都のデータを引用すると、

    がん研有明     488件 うち352件が腹腔鏡(72.1%)
    国がん中央病院  383件 うち147件が腹腔鏡(38.4%)
    虎の門病院     363件 うち353件が腹腔鏡(97.2%)
    日赤医療センター 303件 うち   4件が腹腔鏡(1.3%)

    がん研有明と国立がんセンター中央病院の数値は単純に判断することは難しいが、虎の門病院と日赤医療センターは、明らかに傾向が違う。これは、それぞれの施設の方針、特徴を表している可能性が高い。件数の多い・少ないではない情報が見えてくる。

    ■ランキング本は週刊誌の「東大合格者数ランキング」と変わらない
    これらの病院ランキング本、週刊誌が年度末に特集する「○○大学合格者数ランキング」と共通点が多い。今年は開成高校、灘高校がどうだった、公立が躍進した、なんて情報が踊る。やっぱり開成はすごいね、なんて読む人は思うのだろう。恥ずかしながら、自分の母校がこういったランキングに顔を出すと(滅多にないが)、ちょっとうれしい。

    でも、そのランキングが「高校での教育の実力」を単純に表しているわけではない。ちょっと考えれば分かることだが、誰しもが開成高校には入れない。開成高校や灘高校に入る人たちは、もともと学力面で優れている群であり、もしかしたら、その群は、どの高校に行っても東大に受かる人かもしれない。はたまた、ランキング上位の別の高校では、東大に多く合格しているが、ほとんどの人が現役在学中から予備校に通っているかもしれず、高校の実力を単純に表していないかもしれない。

    リスク調整生存率
    高校の実力を評価する理想論を言えば、高校入学時に、まったく同じ成績の生徒群2つが、A高校とB高校に入り、予備校にも行かず、どのような結果になるか比較すれば良い。A高校とB高校の真の実力が見えてくるはずだ。
    病院の比較でも同じである。もともとの『生徒の実力』を揃え、『大学進学実績』を評価することが大事である。がんで言うなれば、

    生徒の実力=『がんのステージ』、『年齢』

    大学進学実績=『生存率』『再発率』

    といったところだろうか。
    このような評価の試みが、国内でもすでに始まっている(⇒全がん協加盟施設の生存率協同調査)。この試みは、その数値だけを比較し、ランキングするような性質のものではなく、日本全体のがん医療の水準向上を期待し、どのような数値を公表していくべきか、取り組んでいるものであるので、誤解しないようにしたい。

    「偏差値40からの大学受験」といったキャッチコピーで有名になった予備校があったが、まさに患者背景を揃え、アウトカムを評価することが重要である。

    ■これから患者、一般市民に求められること
    患者にとって、病院を評価するために必要な情報は何かということを考え、より開示してもらうことが必要だ。その点で重要になってくるのが、『情報を理解する力』である。
    病院側が開示に積極的になれない大きな理由のひとつとして、ここまで記載してきたような、数の多い少ないだけで短絡的な判断をされてしまうことを恐れていることが挙げられる。
    つまり、読み手の「理解する力」を高められれば、様々な情報の開示が進むのではないだろうか。

    (個人的に思うこととしては、保険者はもっと情報開示の要求を強めても良いと思うのだが・・・)

    2012/11/23

    サプリメント特集の2雑誌、ここまで内容が違うのか!?

    今週、ちょうど週刊ダイヤモンドTarzanが同時にサプリメント特集をしていた。



    どちらもサプリを取り上げているとは言え、その温度差がスゴい!

    Tarzanがサプリ販売会社の広告集のような中身になっているのに対し、ダイヤモンドは自己責任ゆえ飲む人がもっと知っておくべきことの説明に重点を置いている。

    栄養士などに聞くと、あくまでも1日3度の食事から栄養分を取り、どうしても足りないものをサプリメントで補うべき、というスタンスの答えが帰ってくる事が多く、サプリを取ることで健康になれる、というアグレッシブな意見を聞くことが少ない。
    ダイヤモンドの記事に、国立健康・栄養研究所の梅垣敬三・情報センター長のトクホに対するコメントで「乱れた食生活や運動不足を帳消しにしてくれる免罪符としてではなく、今の生活を改善する”きっかけ”として利用するのがベスト」と書いてある。きっかけとして利用・・・にしては、CMでは大きな効果を煽っている気がしてならない。喪黒福造の黒烏龍茶のCMが消費者庁から改善要請されたこと(日経の記事)は、その特徴的な出来事だ。


    では、様々な情報があふれている世の中で、何を信じて、何を疑うべきなのだろうか。
    まず、大量に流れてくるCMや雑誌の広告などを鵜呑みにしないこと。売る側の心理は、都合が悪いことは説明せず、都合のよいことだけを説明する。さらに、健康食品・サプリメントは、治る、効くといった絶対的な効果は説明できなくても、それっぽい言葉で効くような印象を与える。
    「笑顔で歩く毎日に」「立つ、座るをスムーズに」なんて言葉が書かれていたら、関節の痛みが和らぐことを期待しない人はいないのではないだろうか。

    これは医者で処方される薬や、薬局で買う薬にも共通していえることだが、特に健康食品・サプリメントは、専門家である医者・薬剤師が関与する機会が少ないため、飲む人自身が客観的な情報を得て、判断する必要がある。買う・買わないの判断だけでなく、飲み続ける・やめるの判断が極めて重要だ。飲むことによる体調変化には敏感になる必要がある。ちょっとした不安や変化を感じた場合には、飲むのを中断したり、専門家に相談したりするべきだ。

    週刊ダイヤモンド、様々な視点で良く書かれていると思うが、実は、ほぼ同じ内容が、国立健康・栄養研究所のホームページに詳しく書かれている。

    国立健康・栄養研究所 健康食品に関するホームページ

    まずは、これを読めば良い、という資料も出来上がっている。⇒健康食品の説明用資料

    こういった情報を理解し、食生活・運動といった生活習慣を見直し、正しく健康食品・サプリメントを使っていくことは、医療費増加抑制にも一役買うのではないだろうか。

    2012/11/18

    NHKスペシャル がんワクチン ~"夢の治療薬"への格闘~

    見ようと思っていたのだが、外出から戻るのが事故渋滞などで思った以上に遅くなり、番組途中からしか見ることができなかった。

    治験段階のがんワクチンの効果は、肯定も否定もなく、『治験中』なのだと思うのだが、番組はかなり夢の部分を煽っていたようで、公平さは感じられなかった。
    がん患者に期待を持たせるのは、悪いことではないと思うが、公平さを欠く内容で期待を持たせたのであれば、問題がある。

    おそらく、この番組を見たがん患者の一部は、明日にでも主治医に、このことを質問するかもしれない。それ自体は悪くないものの、この番組の偏った情報が現場で混乱を来すこともあり得る。

    治験は薬が『治療薬』として世に出るために必要なプロセスであって、夢の世界が広がっているわけではない。

    この手の話は、一歩間違えれば、健康食品のCMと変わらない番組になりかねないだけに、NHKに大きな期待をしていたのだが、どうやら、健康食品のCMに近い内容だったようだ。

    冒頭から見ていないことで、このような客観性を欠く偏った番組であったと感じさせたのであれば申し訳ない。改めて、再放送を見て、考えてみたい。

    なお、再放送は、11月22日(木)午前0時25分~1時14分(NHK総合)とのこと。

    NHKスペシャル がんワクチン ~"夢の治療薬"への格闘~

    2012/11/14

    湿度低め、気圧高め、風弱め。三拍子揃ったら、激混み!?

    昨日に続いて、どんなときにクリニックが混むのか調査。
    昨日は曜日、祝日の影響を見たが、本日は天候。

    天候には、いくつかの意味が考えられる。

    「雨だから、医者に行くのは明日にしよう」「明日は雨が降りそうだから、今日のうちに医者に行こう」など、医者までの行き帰りの不便さが理由になるケース。

    「急に寒くなって、風邪をひいてしまった」「気圧変化の影響か、喘息の発作が起きた」など、天候が体調変化をもたらし、医者に行かざるを得なくなるケース。

    これらの理由は、本来であれば、分離して数値を検証したいのだが、まだそこまではできないため、今日は、単純に気象データとの比較結果を示す。

    ①湿度が高いほど、医者はヒマ
    ※ 混雑は数値が大きいほど混雑していることを示している。下2つのグラフも同様
    ジメッとした日は医者に行きたくなくなるのか??
    湿度が高い日は雨が降っている可能性もあるから、あながち、間違ってもいないかもしれない。


    ②気圧が高いほど、医者が混む
    湿度同様、気圧が低い日は雨の確率が高いため、何となく納得か。


    ③風が強い日ほど、医者はヒマ
    極端に強い日は別としても、何となく傾向が見える。風は心理的な影響があるのだろうか。
    もしくは、花粉症のような疾患で、症状が強く出てしまう、なんてことも考えられる。

    これらの3つは、ある程度分かりやすい例を示した。
    曜日と天候だけで、クリニックの混雑は説明できないことは十分認識しているが、何かしら関係があることも事実である。
    これらのロジックをもとに、現在、医者が混みそうなどうか予測するシステムを作っている。
    さらには、どういった行動が健康維持につながるか・・・なんてことも考えていきたい。

    2012/11/13

    月曜と祝翌日は医者に行くな!

    最近、めっきり寒くなってきた。東京でもコートを来ている人を見かけるようになった。
    朝起きるときも、布団から出たくないと思うこともしばしば。

    この頃、ちょっとした気の緩みで風邪をひいたのか、そもそも風邪が流行りやすい時期なのか、実は花粉症なのか、はっきりとは分からないが、マスクをしている人が多い。

    風邪は大したことがなければ、「寝て治そう」「温かいものを食べて治そう」といったレベルで済むこともあるし、「葛根湯を飲もう」「風邪薬を飲もう」というような市販薬に頼る人もいる。さらに、医者に診てもらう人もいるし、中には風邪をこじらせて入院なんてこともある。

    医者に行った時に困るのが『流行っている時期』だからなのか、やたらと待たされること。でも、待たされることは、ある程度覚悟しなければならない。

    次のグラフを見てもらいたい。


    弊社分析システム(β版)での算出結果

    これは、月曜日は平均の1.39倍、祝翌日は1.58倍も混雑し、逆に、木曜は3割弱少ないことを意味している。つまり、休み明けは大混雑、休み前もやや混雑、そして火、水、木と患者は減っていく。
    土曜は休診や半休のところもあるから参考程度にしかならないが、それほど混まない。

    診療科や地域によって多少変わるのだろうが、月曜や祝翌日に定期的な受診をするのはリスクが大きい。

    今月で言えば、11月23日勤労感謝の日、24日(土)、25日(日)の三連休明け26日(月)は、非常に混む可能性が高い。三連休に天候が崩れたり、気温が下がったりすれば、なおのことだ。
    病院に定期的にかかっている人は、26日を避け、21日(水)や27日以降に行く事をお勧めする。(あくまでもデータ上の話だが・・・)

    「病院で待たされるのは、病院がうまく対処しないから悪い」と片付けてしまうのは容易い。でも、待つ原因を作っているのは、患者でもあることは間違いない。
    急病は仕方ない。もし定期的な受診をしている人がいたら、仕事等の予定にあわせて、病院を受診するのではなく、病院の空いてそうな日に受診し、仕事等を合わせてみてはどうだろうか。

    ただ、実際には、そんなことは無理だ・・・と言う人が大半な気がする。
    ここで大事なのは、「今日はきっと混む」と思って医者に行く心構えをしておくことだ。

    これは先週、セミナーで聞いた話だ。
    検査が混んでいて、約3時間後、午後になりそうだということを、患者さんに「午後までお待ちいただくことになりそうですが、よろしいですか?」とお話されている病院の事例だった。何も聞かずに、患者さんが待ち続けていると、3時間どころか、10分だって長くイライラするケースだってある。でも、職員が積極的に情報を開示し話しかけていることで、「遠くから来ているから、今日はのんびり待つよ」と答えてくれたそうだ。

    くれぐれも、混雑を緩和しようと医師が診療の手を抜くことだけは防がねば・・・。こんなことでも、患者が歩み寄れる余地はある。

    2012/11/09

    高齢者はいつまで薬を飲むべきなのか

    先日、ご高齢の方々と話をしていたら、次のようにおっしゃった。

    「足が痛いのが治らないのだけど、医者から新しい注射を勧められたのよ。でも、高いし、もう自分はこの先大して長くないから、『そういういいお薬はもっと若い人に使って』って断ってきたのよ」

    また、別のご高齢の方は、次のようにおっしゃった。

    「高血圧なんだけど(薬は飲んでいない)、もう、ちょっと血圧が高いくらいだったら、あんまり気にしなくなってきちゃった。」

    お二人とも、90歳を越え、元気な方たちだ。
    いったい薬はいつまで飲めば(使えば)いいのだろうか。

    ■QALYを理解している合理的思考のおばあちゃん
    このお二人、前者は、痛みとの付き合い。痛みが解消されるならば、ある程度は薬を使うべきかもしれない。後者は、慢性疾患。いつまで使うか難しい。天に召される日まで使うべきなのか、嚥下機能などの状況によっても変わってくるかもしれない。

    財政負担という点では、前者も後者も、負担を軽くする判断をしてくださっている。前者は、「若い人に使って」とおっしゃっていた。これは、医療経済学的には、生活の質の向上度合いと生存年数を乗じた指標(QALY)で判断されることと同義だ。
    個々人を尊重し健康維持と疾病治療することは大前提だが、こういった経済的な観点で”効率化を図る”ことは、日本の財政上、避けられない状況になってきている。

    ■”効率化を図る”タブーへのチャレンジ
    医者が経済合理性を持って、治療を止めれば、その分の収入は減る。薬の処方を減らせば、薬局も製薬メーカーも売上が落ち、処方箋を書かなければ、医師も収入が減る。
    治療費が下がれば、懐にやさしいはずの高齢者は、1割負担で多少の金額の差は気にしていない。そのような状況では、効率化を図ることはタブーなのかもしれないが、誰かがチャレンジしなければならないのではないだろうか。

    海外での事例になるが、EBMに、タイムリーな論文が載っていたので、紹介したい。

    この論文によれば、予め定められたアルゴリズムで高齢者の投薬を中断させた群と介入しない群で、死亡率や急性期病院への入院率、薬剤費用等を比較し、中断させた群は良い結果を示したとのこと。様々なコホート研究等を紹介しているが、そのうちの一つに、ナーシングホームでSSRI(抗うつ薬の一種)を12ヶ月以上服用している人たちが、服薬内容のレビューにより、52%の人が休薬に成功したとのこと。

    患者と医師だけでなく、薬剤師や家族など、多くの人が関わって決めていくべきだろう。
    このような取り組み、日本では受け入れられるだろうか。この概念が取り入れられる際は、第一に、決して高齢者が生きにくい世の中にならないように、第二に、国を支える働く世代の負担が過度に大きくならないように、バランスの取れた制度、仕組みにしなければならない。
    有意な議論をしていくためにも、上記のような論文は非常に参考になる。

    2012/11/06

    がん対策の指標評価

    がん対策推進協議会を傍聴してきた。
    これまで、議事録を読んだりすることはあったものの、直接会場まで足を運ぶことはなかったのだが、先日、門田先生から話を聞いた際、局所的な議論でなく、もっと大局的な議論をしなければいけない場だとおっしゃっていたので、ちょうど時間の都合もついたため、厚労省に行ってきた。

    ■がん対策の評価指標 アウトカム評価、患者満足度も
    議論前半、がん対策の指標評価の討議はストラクチャー、プロセスだけでなく、アウトカムも評価しなければ・・・という教科書的な説明と、QOL、患者満足度といった場合によっては主観的な指標も研究班で検討していきたい、という話だった。

    在宅ホスピスに長年取り組んでいる川越先生からは、助かるがん患者のQOLと、助かる見込みのないがん患者のQOLは、根本は一緒であっても別々に考えなければならないとの意見があった。指標は多くの視点に基づき、納得性、透明性、公平性が求められるだけに、このような意見は分かりやすい注意点であると思う。

    ただ、研究班の担当者が繰り返していた「患者の体験を病院にフィードバックしていくことがまず必要である」という趣旨の発言は、心地良い言葉だが、具体的にどういった指標が提示されるのか、さっぱり分からなかった。なお、患者満足度などの主観的な指標を、施設横並びで公表するような乱暴なことはしないと言っていたので、突然、ショッキングなデータが公表されることはなさそうだ。データ・指標の公開は、建設的な議論を生む可能性も秘めているし、現場を混乱させる可能性も秘めている。先日、全がん協が公表したがん5年生存率もそうだが、読み手の能力が問われるような内容には、十分配慮が必要だ。

    ■相談支援センター、活性化が必須
    後半、相談支援センターの議論は、事例紹介も含め、非常に良い話だが、何もがん対策推進協議会の場で、共有することでもなかろうに・・・。患者団体、医療関係者、行政など様々な意見・感想が聞け、貴重であったことは間違い無いが。

    ■小児がんの拠点整備、全国10ヶ所程度。地区ブロックで1~3ヶ所指定予定
    個人的には、議題から外れるが、会の冒頭で小児がんの拠点病院整備、全国で10カ所程度、指定する話が興味深かった。患者団体の委員からの質問で、「拠点病院に集約されてしまうことで、患者の利便性、経済的負担が増す懸念があることについて、公的補助・支援はないのか?」という趣旨の質問だったと思う。厚労省の担当者の回答はキレがイマイチだったが、結局のところ、全国どの施設でも医療の高い質を求めることは、国民にとって最適ではなく、ある程度の集約は必然的な流れであることを認識すべきであり、負担を強いることになる一部の患者・患者家族には、手厚いサポートが必要、ということなのではないだろうか。

    小児であれば、ドナルド・マクドナルド・ハウスのような施設・団体が、その支援する方向性を具現化していると思う。この議論はがんに限らず、である。

    良い医療を実現する・受けるには、場合によっては負担が求められる。その負担は誰がすべきなのか。色々考えさせられることが多い。

    2012/11/05

    活動量計 fitbit、パナソニック、オムロンの比較


    左から、Panasonic EW-NK63、 fitbit ultra、 オムロン HJA-311

    3つの機能的な違いはほとんどない。歩数がわかる、カロリーがわかる、といったレベルでは、ほとんど一緒。ただ、買って使ってみないと分からない違いがあるため、何かしら参考になれば・・・。


    Panasonic EW-NK63 fitbit ultra オムロン HJA-311
    機能
    睡眠計測機能があり、他機種に比べ、優位
    ハード(大きさ、軽さ) ×
    クリップが大きく、ポケットには適さない
    データ転送
    おさいふケータイ・NFC以外の手段なし
    機器の設定 ×
    本体の少ないボタンで設定する必要あり

    PCでの初期設定で完了


    PCでの初期設定で完了
    ユーザー登録 ×
    パナソニックのユーザー登録とアプリの登録がそれぞれ必要。住所等の個人情報が要求される。規約への同意を何回も求められる。
    オフィシャルアプリ ×
    日本では携帯アプリが使えない

    有料版のweb機能も含めた評価
    価格
    (自分の購入価格)

    3,387円
    ×
    9,200円

    2,950円
    価格
    (amazon.co.jp)

    4,400円
    ×
    8,150円

    2,980円
    総合評価 ×

    今回評価しなかった、オフィシャルなもの以外のアプリケーションや、体重計との連携については、また、機会があれば。

    活動量計を身につけていると、動かなかった日は少しだけ反省するし、たくさん動いた日は少しだけうれしくなる。単純だが、健康増進に役立っている気がする。
    自分の身体のことを記録していくことは、健康に対する意識を高めることに有用である。いかに継続していくかという観点で、楽で、楽しいものを選ぶことは、案外、重要なことなのかもしれない。

    以下、それぞれの評価事由のメモ(amazonなどへのリンクもあります)、参考までに。


    2012/10/28

    書評: 寄りそ医

    地域医療に長年関わってきた人の話は、重みがあり、考えさせられることが多い。
    この本からは、医者と地域の人が、お互い助け合い、生活している様子が伝わってくる。
    現場では、おそらく、この本では表現できないような大変な苦労や問題があるのだろうけれども、この本を読んで良かったと思える本だった。

    印象に残った言葉をいくつか抜粋した。
    ウルトラマンは専門医で、”医局”という星から派遣されて活躍する、サッと現れては、サッと去っていくクールな職人的存在です。一方アンパンマンは、いろんな人たちと連携して患者さんの日々の暮らしを支える、縁の下の力持ち的存在です。「ウルトラマンとアンパンマンがうまく連携することで両者の特性が、より活きるぞ!」とつくづく思います。
    自身をアンパンマンと例え、ジャムおじさんやメロンパンナちゃんに支えられ活躍する姿に重ねられている。そして、ウルトラマンとアンパンマンが連携することで活きるぞ!というメッセージも興味深い。
    「ウルトラマンもいいけど、アンパンマンだって、かっこいいところがあるんだ。無床の(入院設備のない)ちっちゃな診療所だけれど、人口3,000人の在宅生活を支えれば、3,000床の大病院の院長なのだ!」
    そして、自分を奮い立たせるメッセージも、面白い。矢沢永吉とバカボンのパパをうまく登場させているが、上記の3000床の大病院の院長のくだりは、色々考えさせられる。3000床(病気で寝ている人ばかりではないから、3,000床は言い過ぎ?)の院長は、3,000人の病院スタッフ(医療を支えているのは、その家族すべて)に支えられ、日々、診療を行なっていると思うと、3,000人との信頼関係を築き、コミュニケーションを取らなければならない。むむむ、相当デキる院長だ。そして、その院長を育てるのは3,000人の役割が間違いなく大きい。
    「寄りそ医」というタイトルは非常に良いと思う。医者・患者(住民)がどちらも一方的に頼るのではなく、お互い寄り添い合うことは、今後の医療・福祉を考えていく上でのキーメッセージだと思う。

    最後に引用した一文は、地域医療の医師をどうやって育てるか考えている文章である。
    地域医療の仲間を増やすことも必要ですが、それと同じくらい、地域医療を理解する他の分野の医師を増やすことも大切だからです。
    地域医療の志す医師もいれば、そうでない医師もいることを肯定的に受け止め、地域医療を理解する医師を増やすことが大切とおっしゃられている。急性期なり、療養期なり、病院の勤務医の先生方が、地域、地域の医療を十分理解していくことが、その地域に住む人たちにとって、価値のあることなんだと思う。
    これは医師だけでなく、他の医療者にも共通しているし、そして、住民も理解していくことが大切だ。

    蛇足だが、表紙の写真、悪いことができなさそうな顔だ。
    こんな医師を増やすために、自分たちに何ができるか? まず、この本をみんなに読んでもらおうか・・・

    寄りそ医 支えあう住民と医師の物語寄りそ医 支えあう住民と医師の物語
    中村伸一

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