2015/01/24

書評: 沈みゆく大国アメリカ

アメリカのユナイテッドヘルス、直近の四半期決算、好調だったらしい。
加入者の伸びに加え、日経速報ニュースによると「保険料収入に対する保険加入者への医療費支出の割合の改善も増益につながった。」とのこと。

アメリカの医療保険に関する話題と言えば、この本がかなり売れているらしい。


貧困層のみならず、中間層まで、医療破産をしなければならない状況になってしまい、保険会社が莫大な利益を上げるようになってしまったという内容のルポだ。

しかし、本の帯に「アメリカ医療大崩壊 次は日本だ!」とあり、TPP反対を支援するバイアスがかかっている点は留意すべきだろう。この本では、アメリカ市場で展開されているものが、日本に来て、うまくいくかどうかの議論はあまりなされていない。少なくとも、日本において、自由診療での医療は、美容外科やがんの免疫療法といった一部に限られているという事実は、現在の日本の保険制度が非常に良く出来ていることの証だと思う。

「ハゲタカがやってくる」というコメントには賛同しかねる。日本の保険制度を使えば、盲腸の手術は、1入院50万円弱(自己負担はその1~3割)で済むのに、アメリカでは200万以上かかることも珍しくない。常識的に考えて、50万円のサービスが展開されている国に、200万円以上のサービスを輸入することは非現実的だ。圧倒的な高品質サービスであれば可能性はあるのかもしれないが、現状の日本のサービスはそれほど悪くない。

この本に対し、冷静な批評をしている記事もあった。

今話題の「沈みゆく大国アメリカ」を読んで | 医療政策学×医療経済学

このように客観的に内容を批評できるのは素晴らしく、勉強になる。

オバマケアについては、下記の本が分かりやすい。


オバマは2003年のシカゴトリビューンのインタビューで「自動車が質と値段の比較できるならば、心臓手術だって質と値段を比較できるべきだろう」と述べている。類似のサービスには、レストランの比較で有名なザガットサーベイや、自動車の比較で有名なJ.D.Powerを挙げている。

また、同じ時期には、「アメリカにも皆保険を導入したい」という話をしている。日本のような医療制度が羨ましかったに違いない。



ハゲタカとか黒船といった言葉を聞いて思考停止してはいけない。ただ、どういった批判がなされているかも含め理解するために、「沈みゆく大国アメリカ」は必読だ。