2016/08/29

週刊エコノミストを読みながら考える病院におけるビジネスエシックスの重要性

経営(利益)を重視するあまり・・・というフレーズは珍しいものではない。当然ながら、ネガティブな話につながっていく。大抵は商品の品質や従業員の労働環境に問題が生じたりする。

医療とて同じで、病院経営を重視しすぎてしまうと医療の質やスタッフの労働環境に問題が生じる。そうならないように組織運営をしましょうという話なのだが、大学病院はなかなか色々な背景があって難しい。

週刊エコノミストのスペシャルレポート『経営重視し手術数増加が「院是」 規制強化で体質は改善しない』には、これまでの複数の報告書の内容等を踏まえた本質的な問題点の指摘がなされている。記事自体が非常に分かりやすいので、一読の価値があると思う。

様々な病院から病院経営をテーマに自分が呼ばれるシチュエーションでは、基本、何かしら改善したいという病院側の意向がある。それに対する答えとして手術件数を増やせばよいという話では簡単すぎるが、実際には、どのようなところが増やせるのか、どうやって増やせばよいか等々、具体的な話に落とし込んでいる。受け止め方次第では、自分の言っていることは、エコノミストの記事に出てくる群馬大学と同じであり、自分自身も気を引き締めなければならない。先週話していた病院では、議論の途中で、ちょうど、この群馬大学の例を出させてもらったところだったので、感慨深くエコノミストの記事を読んだ。

このような問題を考える上では、『ビジネスエシックス』という言葉がカギになるように思う。病院によっては言葉は違えど、中身としては同じようなことを学んでいるところもあるようだが、今後、重要性が高まる内容であると考えている。参考になるオンライン記事を紹介したい。

ハーバードの必修科目「不祥事を回避する方法」とは

この記事の一部を引用する。
判断が迫られるような場面は、企業のリーダーやマネジメント職になってから直面するものばかりではありません。上司に命令されたが、行動に移してよいか迷う、自分の考えと会社の方針が食い違う……こうしたことに、誰でも悩まされた経験があるでしょう。自分自身で「これが問題だ」と課題に気づき、判断をくだし、自身の価値観を築いていくことは、どんな立場であっても求められることです。意思決定を避けない、そして、倫理の問題について語り合うことを厭わないことこそが、ビジネスマンに必須の素養といえるのではないでしょうか。
病院全体で適切な価値観を築くには、ミッションやビジョンなどの意思決定をブレさせないものが改めて大事になるだろう。


週刊エコノミスト 9月6日号


参考になる書籍

2016/08/27

共創型マーケットシェアに関する原稿2つ

今週、CBnewsにマーケットシェア分析の記事を掲載いただいた。

地域貢献測るマーケットシェア手法を活用 | 医療経営CBnewsマネジメント

医療関係のデータ分析を手がけて17年(途中、空白期間が8年ほどあるのだが、誇大に主張したいので、細かいことは気にしない)、直近の4、5年はマーケット分析を行うことが多くなってきた。地域医療構想等の盛り上がりも相まって、マーケットシェアを経営戦略の参考にしてくれるところも増えてきた。

3年ほど前から、様々な病院で分析を行ってきたこともあり、考え方を一旦整理する意味も込め、CBnewsに原稿を書いた。

簡単にまとめたポイントが下の表なのだが、よく目にするDPCデータを使ったマーケットシェアは、自分が呼ぶところの「競争型」のマーケットシェア。自分の病院が200例、他の病院が100例。うちは頑張っている!みたいな分析。しかし、東京のような遠方からいくらでも患者が来てしまうエリアでは、200例という数自体が適正かどうか判断できない。

そこで、「共創型」マーケットシェアという分析手法で、地域貢献を計っている。

医療におけるマーケットシェアの2つの考え方
出所:弊社作成

「共創型」は「競争型」と対比する意味が一番なのだが、一般的に使われる「ウォレットシェア」では医療の世界ではピンと来ないので、勝手に共創型と呼んでいる。

この概念自体は、以前にCBnewsでMMオフィスの工藤氏に記事を書いていただいている。(工藤氏に分析データを提供)

急性期医療は二次医療圏ごとでは完結しない | 医療経営CBnewsマネジメント

前回は二次医療圏内の患者流出入に重きを置いていたため、北海道の地図が並んでいる(そんな分析、資料を作った記憶が確かにある)。そのような原稿の流れから、マーケットシェアにはあまり触れていない。もしよろしければ、ふたつ一緒に読んでいただけると、背景的な部分も含め、理解いただけて、良いかもしれない。

2016/08/26

肥満とがんの関係性

気になったので、メモ。

IARC Handbooks of Cancer Prevention Volume 16: Body Fatness
In 2013, an estimated 4.5 million deaths worldwide were attributable to overweight and obesity. The identification of new obesity-related cancer sites will add to the number of deaths worldwide attributable to obesity.

Body Fatness and Cancer — Viewpoint of the IARC Working Group — NEJM


肥満とがんの関係性について言及しているらしい。


2016/08/23

今後、費用対効果の検証・議論は避けて通れない

先週流れていたPCSK9阻害薬の費用対効果検証のニュース。

Amgen, Sanofi Cholesterol Drugs Not Cost-Effective, Study Says - Bloomberg

New cholesterol drugs could add $120 billion to annual U.S. health costs - USA TODAY

日本では、オプジーボが話題となることが多い。しかし、オプジーボが話題になっているはたまたまではなく、今後もこういった薬は続々と出てくる可能性がある。患者にとっては、画期的な新薬が出てくるのはうれしい話である一方で、財政的には悩ましい話だ。

PCSK9阻害薬のニュースはアメリカの話であり、そもそも日本でこの薬を使う人の割合については、アメリカと同じではないので、そのまま日本でも・・・ということではないが、費用対効果の検証を行った結果がニュースになるのは、今後、普通のことになるのかもしれない。

ブルーンバーグの記事の一部を引用する。
Praluent and Repatha to all eligible patients would also contribute to a $120 billion increase in annual U.S. health-care spending, a gain of about 4 percent, they said.“This hopefully should prompt some discussion about what are reasonable or tolerable drug prices in the U.S.,” Kirsten Bibbins-Domingo, an author of the report and a professor at the University of California, San Francisco, said in a phone interview. “We modeled many, many, many scenarios, and this drug is not cost-effective at the ticket price.”
これらの薬だけで年間1200億ドル≒12兆円にもなり、アメリカの医療費総額の4%くらいになりそうだと書いている。(アメリカの医療費は確か3兆ドルくらいなので、多分12兆円という自分の計算は間違っていないはず)

日本の医療費総額が40兆くらいなので、12兆円と聞くと椅子から転げ落ちそうな額だ。

費用対効果の検証としては、ニュースの基になっているJAMAの論文を読むと分かりやすい。対象となる疾患ごとに、薬を使った場合、使わなかった場合、それぞれを比較し、検証している。
Cost-effectiveness of PCSK9 Inhibitor Therapy in Patients With Heterozygous Familial Hypercholesterolemia or Atherosclerotic Cardiovascular Disease | Aug 16, 2016 | JAMA | JAMA Network

画期的な新薬が次々生まれ、患者が使えるようにするには、こういった議論は避けて通れない。今後、一般市民もこういった話題に興味・関心を持つべきだろう。

2016/08/10

CBnews掲載記事「CT配置議論」のボツ資料

先週、CBnewsにCT・MRI配置に関する記事を掲載いただいた。

CT・MRI配置議論はデータ分析を綿密に | 医療経営CBnewsマネジメント

日本の医療はフリーアクセスであり、診療を受ける医療機関について、基本制約がない。また、クリニックの開業についても許可こそ必要であるが、ベッドがないものについては制約がない。そして、各医療機関がCTやMRI等の高額医療機器を買うことについても、制約はない。

検査などの値段こそ保険診療においては自由に付けられないが、CT等の配置は自由度が高く、地域地域での計画的な配置は難しいのが現状である。

また、診療報酬は個々の医療行為の業務負荷と、医療機関の経営状況を鑑みて決められるため、CTの検査料が著しく赤字になるような点数にならないように配慮されている。

このような背景があるため、CTやMRIなどの高額医療機器は、各医療機関の患者に対する病院の充実度アピールの側面があることは否めず、最新機器を積極的に購入している医療機関もあるくらいである。このような自由な競争環境が、日本の医療の質の高さの源泉であると思う反面、医療費が高くなっている可能性もあるため、今後、どのように高額医療機器を配置していくべきか議論していくことは重要なことだろう。

今回のCBnewsの拙稿では、検討会に出されていた『ある結論』に誘導するための分析データが意図的に示されていたように思えてならなかったため、違う切り口で分析した結果を示しながら、CT等の高額医療機器の配置について、制度・政策で進めていくべき方向性について意見を述べた。詳しくはいつもどおりだが、CBnewsのサイトをお読みいただきたい(後半は有料会員限定です・・・)

今回のボツにしたグラフはこちら。
二次医療圏人口規模と人口10万人あたりCT患者数の関係性
出所: 2014年医療施設調査、住民基本台帳等のデータを基に分析・作成
二次医療圏人口規模によって、CTの配置、検査実施状況に差異があるか検討したものだ。上記のグラフからは関係性が見えてこない。すなわち、10万人あたりのCTの患者数(≒検査回数)は、二次医療圏の人口規模と関係はないと考えられる。(関係がないことを示すことも重要なのだが、いかんせん、面白みに欠ける。説明が冗長になってしまう懸念もあったためボツにした)

CBnewsの記事では、横軸は同じで、縦軸に別のパラメーターを取った場合に、一定の傾向が見られる分析結果を示している。人口規模に応じて、CTのどのような指標が関係してくるか、想像しながら、記事をお読みいただくと面白いのではないかと思う。今回は、二次医療圏人口や人口密度など、あまり使用しないデータとの分析が多かったため、個人的にはだいぶ分析に時間がかかってしまったのだが、それなりに興味深い分析結果を示せたのではないかと思う。

2016/08/02

患者・家族アドバイザリー会議が病院改善の原動力に

患者やその家族、地域の住民に対し、病院が「市民講座」を開いたり、がんなどの患者会などの集まりを支援したり、病院が地域に対し、様々な活動を行う話は珍しくない。ちょうどこの時期であれば、夏休みの子どもたち向けの職場体験会を催す話も良く聞く。

そのような「開かれた病院」を作るステップを経て、いくつかの病院では、病院を良くするために、患者やその家族、地域住民を活用する話を聞くようになった。

参考になりそうな事例として、放射線部門の改善における患者家族アドバイザリー会議の活用に関する論文が載っていた。

The Use of Patient and Family Advisory Councils to Improve Patient Experience in Radiology : American Journal of Roentgenology: Vol. 0, No. 0 (AJR)

フィッシュボーンダイアグラム(論文ではIshikawaと書かれている)を作成し、受付から検査までの実際の流れを現場で確認したり、患者アドバイザーが病院の様々なスタッフとディスカッションをしている様子が理解できる。例えば、患者アドバイザーは、どのようなことにストレスを感じているか伝えたりしているようだ。

このような活動は、病院側の準備も入念に行う必要があるだろうし、患者家族側にもそれなりの熱意が求められる。

しかし、そのハードルをクリアできれば、かなり良い結果が待っているように感じた。それは放射線部門の改善も然りだが、下記の一文に象徴されていると思う。
The patient advisor was considered to be a key element to the success of the project, and both the patient and the members of the hospital-based improvement team expressed that they enjoyed working together.(意訳 患者アドバイザーはプロジェクト成功の重要な要素であった。そして、患者も病院の改善チームのメンバーも、、お互い、一緒に仕事できることが楽しかった)
病院の改善に患者を巻き込む。この取り組みができるところは、住民からの信頼を強固なものにできるに違いない。